2浴現像法について
                                            宮岡貞英

1、前書き
  初めてこの「2浴現像法」を知ったのは10年ほど前のことで、当時所属していたアマチュアの写真クラブの例会で森厚樹先生(故人、日本写真家協会会員)から、「面白い現像液があるからテストしてみないか」といわれて3種類の薬品をいただきました。使用法は「A液とB液をそれぞれ溶解し、A液で4分現像しその後B液で4分しなさい」といわれ実験してみました。そのときはなぜ現像液を二つも使う面倒なことをするのかというくらいの感想しかもたなかったことを記憶しています。
 これが「2浴現像法」だと知ったのはだいぶ後のことでした。アンセル・アダムスの著書『ザ・ネガティブ』(岩崎美術社・刊)の「ウォーターバスと2液現像」の項(「第10章:処理によるヴァリューの制御」238ページ)で、A液にD-23処方(コダック社)を使い、B液にコダルクの1パーセント溶液(現像促進のアルカリ剤、メタホウ酸ナトリウムのコダックの商品名)を使うという処理を知り、さらに「ファイン・プリントテクニック」(写真工業出版社・刊)の処方集(208ページ)に、ライカ用2浴現像液として、B液に亜硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウムを使用する処方が紹介されていました。
 今回この方法によるテストをすることになったのは、モノクロ写真を本格的にやり始めたところ、一度に現像するフィルムの数が多くなり現像のたびに、液温、攪拌、液の補充などの管理が面倒くさくなってきました。そんな折り小山貴和夫先生からアサヒカメラ誌の「新2浴現像液をテストする」という中川一夫氏のテストレポートを紹介してもらたことと、インターネットでアメリカのジェイムス・M・ケイト氏の「ラージフォーマット・フィルムのための2浴式フィルム現像液の新乳剤フィルムに対するテスト結果」というテキストを発見し、35ミリフィルムへの応用を考えテストしてみました。

2、特徴
1)各社の低感度から高感度フィルムまでほぼ同一時間で現像ができる。ただし赤外フィルムやコピーフィルムは除く。
2)反復使用しても現像液の疲労が少なく、他の現像液よりも多くのフィルムを現像することができる。
3)現像液の保存性が良く、一度使用したものでも数ヶ月後にも使用可能。
4)処理温度に幅があって19度から29度の範囲で使用可能。24〜25度が標準。

3、処方
処方
1)シュテックラー氏の処方(1938年発表)
 第1現像液
 温水(40度程度)----------- 750cc
 メトール-------------------  5g
 無水亜硫酸ナトリウム------- 100g
 水を加えて----------------- 1000cc
第2現像液
 温水(40度程度)----------- 750cc
 硼砂-----------------------  10g
 水を加えて----------------- 1000cc

※第1現像液のメトールは現像主薬、無水亜硫酸ナトリウムは保恒剤。第2現像液の硼砂は促進剤としてのアルカリ剤。

2)ダンセル氏の処方(1967年ライカフォトグラフィ誌で発表、アサヒカメラ誌で『ライカフォトグラフィ誌に理想の液と紹介された新二浴現像液をテストする』と題して中川一夫氏が紹介)
 第1現像液
 温水(40度程度)----------- 750cc
 メトール-------------------  5g
 無水亜硫酸ナトリウム-------  75g
 水を加えて----------------- 1000cc
 第2現像液
 温水(40度程度)----------- 750cc
 硼砂-----------------------  10g
 水を加えて----------------- 1000cc

※無水亜硫酸ナトリウムには金属銀を溶解させて微粒子化する性質を持っているが、同時に精鋭度をやや損ねてしまうことも知られている。そこで微粒子性よりも精鋭度を重視した処方が発表された。
※D-23の処方(参考として類似処方)
温水(40度程度)----------- 750cc
 メトール------------------- 7.5g
 無水亜硫酸ナトリウム------- 100g
 水を加えて----------------- 1000cc

4、現像処理手順
1)フィルムを巻いたリールを装填した現像タンクに、第1現像液を注入し30秒連続攪拌し25秒静止・5秒攪拌を繰り返し、3分から5分の現像を行う。
 詳細はテスト結果を参考にすること。
 富士フィルム ネオパン・プレスト400 4分30秒
 富士フィルム ネオパン・アクロス100 4分30秒
 コダック   トライX        4分30秒
 コダック   T-MAX400      4分
 イルフォード FP-5         5分30秒
 イルフォード デルタ400       5分30秒
2)第1現像液を排出し水洗することなく直ちに第2現像液を注入し、1)と同様に攪拌し4分以上の現像を行う。
3)以降はふつうの現像処理と同様に停止、定着、水洗、乾燥をおこなう。
※なお中川氏の記事によれば第1現像処理時間は、「何故かメーカーを問わず外国製フィルムは3分30秒、国産フィルムは4分となった」と報告されている。

5、2浴現像方の原理と効果
 D-76などふつう使われている現像液(フィルム・印画紙共)は、1液で現像主薬・保恒剤(酸化防止剤)、促進剤、カブリ抑制剤などによって構成されている。従って現像タンクに注入の瞬間から現像作用が開始され現像が進行する。
 現像の進行とは、感光乳剤中の撮影で光を受けたハロゲン化銀が現像主薬によって還元され金属銀になることをいう。この金属銀がフィラメント状(ダブルコイル状)に集合し画像を作り出す。還元し終わった現像主薬は酸化して現像能力を失う。引き続き新鮮な現像主薬をハロゲン化銀に接触させ反応させるために攪拌が行われるのである。この繰り返しが現像の進行といえる。
 ところで現像主薬が現像液や空気中の酸素により酸化することを防ぐために使われる無水亜硫酸ナトリウムは、同時に金属銀を溶解する性質を持っている。この性質をネガの微粒子化に利用していた。しかし金属銀を溶解し見かけ上微粒子にするが同時に先鋭度が失われてしまう。現代のフィルムはハロゲン化銀の改良により微粒子になっているので、そのような作用は必要としていない。従って本来の保恒剤(酸化防止剤)の役割だけで良いという判断で、ダンセル氏および中川一夫氏の処方では無水亜硫酸ナトリウムの量を減少させたものになっている。
 1浴現像液では全ての作用が同時に進行するため、液温や攪拌・現像時間・液の疲労度などの管理が面倒なことから「フィルム現像は難しい」ということになってしまった。
 この2浴現像液では、次のように処理が進行する。
 1)第1現像液を注入する。現像主薬のメトールと水分が感光乳剤に染み込み乳剤層を膨潤させる。第1現像の現像時間は、現像主薬が乳剤層に染み込むために必要な時間となる。このとき無水亜硫酸ナトリウムは液中にとけ込んでいる酸素による酸化を防いでいる。
 2)第1現像液を排出後、第2現像液を注入すると現像促進剤である硼砂が反応して現像が開始される。第2現像液の現像時間は、ふつうの1浴現像液のように周辺の現像液から現像主薬が補給されることがないので、乳剤中の現像主薬が反応し終わると自動的に現像が終了してしまう。この点が第2現像の処理時間は4分以上ならば多少ラフでも良いことになる。
 また乳剤層に存在する現像主薬の量は限られているので、露光量が多いハイライト部分の現像は早く終了してしまう。また露光量の少ないシャドウ側はゆっくりと進行し、やがて現像主薬が酸化されて能力が無くなるまで現像され続け、やがて現像主薬の完全な酸化とともに現像が終了する。一種の自己コントロールといっても良いであろう。つまりハイライト側の濃度増加が抑えられるので極端にコントラストが上がることがなく、逆にシャドウ側はゆっくり現像されてある程度の濃度が確保されることになりプリントしやすいネガとなる。
 なお高感度フィルムは乳剤層が厚く作られているので、乳剤に染み込む現像主薬の量も多くその分しっかりと現像されると考えられる。
 アサヒカメラの中川一夫氏の記事によれば、「この方法はフィルム現像を困難なものとさせてしまう要素『・各種フィルムによる現像時間の違い。・反復使用による液の疲労のための現像時間の延長度(率)。・保存による現像液自体の能力減退のための現像時間の延長』が解決される。」という。

6、注意事項
 良いことずくめの理想の現像液と考えられるが、次の諸注意をまもっていただきたい。
 1)液温は24度ぐらいが最適、ただし第1現像液・第2現像液ともに同じ温度を保つこと。
 2)第2現像液が、第1現像液に混入することを防ぐ。混入すると組成が一般の現像液と同じになってしまい現像が進行してしまう。

7、プロフィール
宮岡貞英 昭和7年、東京都生まれ
立教大学経済学部卒、在学中写真部に所属、卒業後防衛庁航空自衛隊入隊
昭和61年定年退職。定年後、写真家森厚樹先生に師事、写真を趣味に暮らす。
現在四国を遍路の旅をしながら作品を作っている。

※上皿天秤はかりをお持ちでない方のために、計量スプーンを使った調合できるように処方の改良に努めていただき、後日ご報告したいと存じます。(小山貴和夫)